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40歳を過ぎたら胃の内視鏡検査を受ける

男女ともに40歳を過ぎたら、年に一度、胃内視鏡検査を受けることはガンの早期発見には欠かせません。一般的な胃がん検診の検査法には、先にも挙げた胃バリウム検査の他、ペプシノゲン検査、ヘリコバクター・ピロリ菌抗体検査、胃内視鏡検査などがあります。

ペプシノゲン検査というのは、胃の消化酵素ペプシンをつくるペプシノゲンという物質を調べる検査です。この検査は胃の萎縮(胃粘膜の薄さ)の度合いを調べるもので、胃粘膜の萎縮がある人は胃がんのリスクが高いという、間接的に胃がんリスクを推測するものです。

直接的に胃がんを見つける検査ではないので、注意してください。また胃の萎縮が進んで腸上皮化生という状態になると、ピロリ菌が生息できないほど荒れた胃粘膜となり、発がんリスクが高い状態にもかかわらず、ピロリ菌が消滅してしまうことがあります。ピロリ菌の有無だけを調べるヘリコバクター・ピロリ菌抗体検査も、

ピロリ菌の有無を調べるだけであるため、胃がん検査としてはまったく不十分です。最近、ABC検診(別名/胃がんリスク検診) という胃がんのリスクを血液検査から推察する検診が行われるようになってきています。ABC 検診とはピロリ菌感染の有無とペプシノゲン判定による胃粘膜の萎縮(薄さ)の程度を血液検査で調べ、胃がんになるリスクをAからDに4分類します。その分類でリスクがあると判定された方には胃内視鏡検査による精密検査がすすめられています。

血液検査のみで行えるため手軽ですが、胃がんそのものを見つけることができる検査ではありませんし、一度検査を受けた方はその後の定期検査に用いることができません。あくまで胃がんリスク検診(リ・ス・ク)であって、胃がん検診とは違います。胃がん検診としていかにも胃がんを血液検査だけで簡単に見つけることが可能だと謳っている事業者もいますので注意してください(自宅で簡単にできる胃がん検診などと宣伝している場合もあります)。

胃がんには大きくわけて、比較的悪性度の低い分化型と悪性度の高い未分化型の2つのタイプがあります。ABC検診は分化型胃がんのリスクを判定しますが、未分化型胃がんのリスクは判定できません。未分化型胃がんの割合が半数近くあるとの報告もありますので、胃がんの半数近くが無意味な検査となってしまう可能性があることにも注意が必要です。

胃のがんを調べるのであれば、粘膜を詳細に直接診ることができる胃内視鏡検査が最適です。よく胃内視鏡検査の欠点として挙げられるのは、口から内視鏡(胃カメラ)を入れるのが「苦しい、つらい」」という感覚です。つらいと感じる理由はおもに3点あります。ひとつは、内視鏡が喉の奥から食道に入る時に、「おえっ」となる嘔吐反射が起こること、ふたつ目が喉にスコープが触れている機械的な圧迫感、そして3つ目が胃の内部を観察するために胃の中に空気をパンパンに入れるため、胃の膨張感や突き上げられるような苦しさが生じる、ということです。

最近では、軽い鎮静剤を使うことで、胃内視鏡検査のこうしたデメリットを克服できるようになってきています。検査を受ける人は軽くウトウトした状態で過ごせますし、検査する内視鏡医も胃粘膜の襲を伸ばして粘膜を隅々まで十分に観察できるのが利点です。胃内視鏡検査には、検診などでも多く採用されている「経鼻内視鏡検査」といって、スコープを鼻から入れて食道や胃を観察するタイプもありますが、この場合は鎮静剤を使わないのが一般的で、検査中の患者さんが苦痛からゲップを頻繁にしてしまうことも多くあります。

そのため、胃の中に空気を十分に入れることができずに、粘膜を十分に伸ばした状態での観察がきちんとできないこともありえます。また経鼻内視鏡は、狭く出血しやすい鼻の中を通すためにスコープが細いのが特徴です。先端についているカメラのレンズも小さく、光源も暗いため、解像度が低い暗い画像になり、視野も狭くなってしまいます。やはり検査の精度という点では、口から入れるハイビジョン画像の胃カメラに利点があります。さらに、ハイビジョン内視鏡であれば広い視野で明るく詳細な画像が得られ、観察においても処置においても、性能が格段に高くなります。

また、健診センターなどで行われている流れ作業での内視鏡検査を受ける際にも注意が必要です。多くの検査数を短時間でさばかなければいけないため、あらかじめ検査時間が短く設定されていることが多く、健診契約のお金の関係から、「生検検査などは行ってはいけない」などと制約も多く存在しており、十分な精度という点で注意が必要です。こうした検査方法や使用機器の詳細にっいても、医師や健診センターによく確認して、納得して内視鏡検査を受けることを心がけるといいでしょう。

胃内視鏡検査で胃がんが疑われる粘膜異常が発見された時は、特殊な薬液で粘膜を染色したり、その部分の細胞を採取して顕微鏡で精密検査を行い、がんの有無などを調べます。胃.がんの進行は大腸がんなどと比べると比較的早いとされているため、40歳を過ぎたら胃内視鏡検査は1年に1回程度定期的に受けるべきでしょう。
以前ピロリ菌がいた方や胃粘膜の萎縮や腸上皮化生があるなどリスクの高い人は特に注意して、厳密にチェックしていくことが大切です。

簡易なガン検診の本来の目的まで理解する

なぜこうした精度に疑問があるような検査が自治体などで「がん検診」として広く行われているのかと、疑問に思うかもしれません。

それは、がん検診がなにを目的としているか、ということにその答えがあります。しかし実は、職場や自治体などで採用されている一般的ながん検診は、「ごく初期の小さながんもすべて見落としなく発見する」ことを目的としているわけではありません。

がん検診の対象となるのは、そのがんになる人数が多く、またそれによって死亡する人が多い種類のがんです。そしてがん検診の目的は、検診によってがんの発見を増やし、さらに適切な治療につなげることで、国や集団全体としてがんによる死亡を減少させることです。

つまり、徹底的に調べ上げてがんを見つけだすことががん検診の目的ではなく、極端にいえば、死亡率に影響しないような小さながんは見つけなくてもいい、というのが、自治体などの一般的ながん検診のスタンスです。集団としてのがん死亡率低下が、目指す地点だからです。

しかし、個人の人生でいえば「小さながんなら見つけなくてもいい」とは、誰も思わないはずです。がんが大きくなればなるほど治療にかかる身体的・経済的・精神的負担は大きくなりますし、ステージが進めば生存率も下がります。がんはできるだけ小さいうちにできるだけ初期のうちに発見するに越したことはないのです。

国のがん死亡率がどれだけ低下しても、自分が不幸にもがんで命を落とす側になってしまったら、まったく意味がありません。そう考えると、がんを防ぐためには、精度の高いがん検査を自ら選んで受け、自分で自分の健康と命を守っていく必要があります。

がんの発生が増える40代以降は、きちんとした精度の高いがん検査を受けることをぜひ習慣にしましょう。特に、胃がんや大腸がんといった消化器のがんでは、専門医による内視鏡検査で定期的に検査を受けることをおすすめします。
胃バリウム検査や便潜血検査はもちろん、人間ドックの高額なPET検査であっても、早期の消化器がんは発見が難しいからです。

適切ながん検査によって早期発見・早期治療につながるといわれているがんは、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、乳がんの5 つです。

臓器ごとのがん検査の検査法などは次から説明していきますが、胃がん、大腸がん、肺がんに加えて、男性では50代後半になったら血液検査で前立腺がんの腫瘍マーカー検査(PSA)を、女性では比較的若い時期から乳がん、子宮頚がん検査を受けると非常に効果的ながん対策になるものと思われます。

最新のPET検査も がん検診には万能ではない

腫瘍マーカー採血や検診などの一般採血では早期がんは見つからないはちょっと意外だったかもしれませんが、PET検査も万能ではないのです。

がん検診のひとつとして、人間ドックなどで行われている検査に「PET(ペット)検査」というものがあります。PETは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略です。

ガン細胞はブドウ糖を栄養素として成長するため、通常の細胞の約3~10倍ものブドウ糖を消費するといわれています。PET検査は、がん細胞がブドウ糖を多く消費する性質を利用して、ブドウ糖に近い成分のFDGと呼ばれる放射性物質を体内に注射し、その放射性物質ががんに集まる様子を画像としてとらえる検査です。

現在、がんを早期発見する検査として主流になっているCT検査やMRI検査は、映し出された臓器の形態や病変の形から、がんを見つけ出すものです。

これに対してPET検査は、がん細胞のブドウ糖の取り込みやすさという性質を利用して、がんを見つけ出す仕組みとなっています。PET検査は、もともと転移を含めたがん病巣の広がりや、がんの再発を見るための検査として開発されたもので、がんを早期で発見するのが本来の目的ではありませんでした。それにもかかわらず新しいがん検診機器としてマスコミが大々的に報道し、一部の検診クリニックの誇大広告などもあり、「すべてのがんが見つかる」というような大きな誤解が広がっていった実態があります。

そのため、最新のPET検査といえどもやはり万能ではありません。ブドウ糖の代謝が促進されている再発がんは数ミリの大きさでも捉えられること多いですが、ブドウ糖の取り込みが少ない早期がんは、PET検査では判別がとても難しいといわれています。また部位(臓器) たよっても、見つけすいがんと、見つけにくいがんがあります。

PET検査のメリットとしては、がんの転移や再発を早期に、より小さな病変で見つけることが可能という点です。一方、デメリットは食道や胃、大腸、肝臓などの早期がんの発見が難しいことや、放射性物質のFDG が集まりやすい脳や肝臓、腎臓、勝胱などのがんが見つけにくいこと、血糖値が高い人は診断が難しい点などが挙げられます。

さらに早期の肺がんはFDGががん細胞に集まりにくいため、胸部CTのほうが発見しやすいとされています。

最近ではPETにCT検査を組み合わせるPET/CT検査が増えており、PETの弱点を補う工夫がされていますが、それでも特に粘膜の微細な変化のみである早期の消化器がんは、こうした検査では発見するのは難しいのが現状です。

国立がん研究センターのがん予防・検診研究センターでは、ある年のがん検診でのPET検査陽性率の解析を行っています。それによると、1年間でがん総合検診を受けた約3000人中、約150人にがんが見つかり、そのうちPET検査で陽性となったのは15%に過ぎないというデータが発表されています。

これは、逆にいうと、85%のがんはPET検査では発見できないということです。同センター検診部長の医師は「PET検診の意義は小さいのではないか」ともコメントしていました。

PET検査装置は、最大で約10億円台の初期投資がかかるとされています。PET装置メーカーやPET装置を取り扱う商社や薬剤メーカーなどがこぞって医療機関に売り込んだことから、初期投資回収のために誇大広告をし、「すべてのがんが見つかるがん検診」として、誤解が広がっていったともいわれています。

人間ドックで最新のPET検査を受けたから、「がんの心配はゼロ」とは決していい切れないことを知っておいてほしいと思います。